霧島弥生は、朝から日が暮れるまで待ち続けた。それでも、宮崎瑛介からの返信はなかった。彼女の携帯は静まり返り、まるで外界と切り離されたかのようだった。以前、仕事をしていたとき、霧島弥生は自分の携帯が誰からも連絡を受けないことを望んでいた。そうすれば、少しでも多くの休息時間が取れるからだ。しかし今は……夕暮れが迫る頃、ようやく霧島弥生の携帯が一度だけ鳴り、メッセージが届いた。彼女は驚いて、急いで携帯を手に取ったが、内容を確認すると目が曇った。メッセージは尾崎由奈からだった。「どうした?彼に打ち明けた?」霧島弥生はしばらくの間、携帯を見つめていたが、ふと、苦笑いを漏らした。その笑いには自嘲が込められていた。結果は分かっていたのに。それなのに、どうして諦めきれなかったのか?わざわざ自分の傷を広げて見せ、人に軽蔑されることを望んでいたのかもしれない。今となっては、彼にどう顔を向けしたらいいのか分からない。霧島弥生はベッドに寄りかかり、そのままゆっくりと倒れ込んで目を閉じた。彼は今、誰と一緒にいるのだろう?何をしているのだろう?私が妊娠していることを知ったとき、彼はどんな反応を示すのだろう?彼はこのことを江口奈々に伝えるのだろうか?私は江口奈々の目にどんなふうに映るのだろうか?一瞬で、霧島弥生は自分の体から力が抜けていくように感じた。その晩、霧島弥生は夕食に少しのお粥を口にしただけで、他は何も食べる気になれなかった。夜の9時になっても、彼女の携帯は静まり返っていたため、仕方なく上着を羽織って下に降りた。執事はまだ起きており、彼女が階段を降りてくるとすぐに立ち上がった。「奥様、こんなに遅くまで何をしているのですか?どうして休んでいないのですか?」霧島弥生は誰もいない空っぽの玄関を見つめた。「瑛介はまだ帰っていないの?」執事の目に驚きの色が一瞬浮かんだが、すぐに答えた。「先ほど、旦那様の助手から電話があり、今夜は用事があるため、帰らないとのことです」その言葉に、霧島弥生の心はさらに沈んた。彼女の顔色が悪いのを見て、執事は心配そうな表情を浮かべた。「奥様、大丈夫ですか?」霧島弥生は我に返り、無理やり笑顔を作った。「大丈夫よ」そう言うと、彼女は再び階段を上り、部屋に戻
彼自身も気づいていないかもしれないが、その言葉を言ったとき、彼目の奥に明らかな愛が見え隠れしていた。「番号ちゃんと登録したか?」突然、宮崎瑛介が問いかけた。その言葉に、江口奈々は我に返って答えた。「うん、登録したよ。後で彼女を誘って遊びに行ってもいい?」「ああ、仕事ばかりに没頭するのも良くないしな」江口奈々は少し気まずそうに笑い、背を向けた。その一見柔らかい彼女の目には、一瞬の陰りが見えた。翌日霧島弥生が目を覚ますと、目が少し腫れていることに気づいた。周りに気づかれないように、冷たいタオルで腫れを抑えた。携帯を確認すると、何人かからメッセージが届いていた。江口堅からは、「仕事は全部片付けておいたから、心配しないでゆっくり休んで。もし具合が悪かったら、必ず病院に行くんだよ」「起きた?体調はどう?必要なら、一緒に病院に行くよ」上のメッセージは昨晩、下のメッセージは今朝送られてきたものだった。それに、彼女の親友、尾崎由奈からもメッセージが来ていた。「どうして返事をくれないの?何かあったの?ごめんね、変な提案をしてしまって」その後も、彼女を気遣う内容のメッセージが続いていた。霧島弥生は、尾崎由奈が昨夜ほとんど眠れなかったのではないかと想像した。彼女は尾崎由奈に「私は大丈夫だから、心配しないで」と返信した。それから、江口堅に感謝のメッセージを送り、仕事を片付けてくれたことへの感謝と、今度一緒に食事に行こうという誘いを送った。尾崎由奈からは返信がなかったが、江口堅からはすぐに返信が来た。「体調はどう?」霧島弥生が返信しようとした矢先、江口堅から電話がかかってきた。彼女は少し迷った後、電話に出た。「もしもし、江口くん」「うん、少しは良くなった?」「だいぶ良くなったよ」「でも、声に少し鼻声が残っているみたいで、まだ具合が悪いんじゃない?」霧島弥生が黙っていた。江口堅は、霧島弥生の体調を気にしていた。しばらく向こうが黙った後、こう言った。「宮崎くんは病院に連れて行ってくれなかったのか?」突然、宮崎瑛介の名前を聞いた霧島弥生は一瞬戸惑ったが、その話題を避けた。「ただの軽い風邪だから、自分で薬を飲んで治すつもり。二日間寝てたから、もう大丈夫よ」向こうはため息をつき、
中絶という言葉を聞いて、尾崎由奈は一瞬言葉を失ったが、すぐに反応した。「な、なぜなの?」「なぜだと思う?」「でも……」尾崎由奈は不満げに言った。「もう二年も一緒にいるのに、彼は弥生ちゃんに未練が全くないの?しかもその子は他の誰かの子じゃない、宮崎くん自身の子なのよ。夫として、父親として、彼には少しも情がないの?」霧島弥生は黙っていた。もし、メッセージを送る前に彼女が宮崎瑛介に対して少しでも希望を抱いていたとしたら、今、その希望は完全に消えてしまった。インターネットでよく見かける言葉がある。そうだ……彼があなたを愛しているときだけ、あなたの子供は子供として認められる。愛していないときは、子供どころか、あなた自身すら彼にとって何も意味を持たない。尾崎由奈はさらに続けた。「たとえこの二年の情がなくても、あなたたちは幼馴染で、一緒に育った仲じゃない。そんな絆もないの?弥生ちゃん、もしかして、彼としっかり話していないんじゃない?もしそうなら……」「由奈ちゃん」霧島弥生は冷静に彼女の言葉を遮った。「もう何も言わないで」これ以上話すことは、彼女自身をさらに惨めにするだけだ。一度で十分だ。何度も繰り返すなら、それは乞うているようなものだ。それなら、彼女は何もいらない。霧島弥生は尾崎由奈の電話を切り、それから立ち上がって身支度を整え、気持ちを引き締めて仕事に向かった。彼女は自分の車で会社に行き、職場に着くと、最初に以前の仕事を確認し、問題がないことを確かめた。それから、携帯を取り出して、オンラインで中絶の予約を取ろうとした。もし中絶を決めたなら、できるだけ早く対処すべきだ。今週の予約はすでに満員で、霧島弥生は次の週の予約しか取れなかった。予約を確定しようとしたとき、霧島弥生の指が無意識に止まった。心の中で、ある声が彼女に問いかけた。「本当にこの子をおろすの?本当にそれでいいの?」続いて別の声が答えた。「おろさなかったらどうなるの?父親のいない子供を産んで、あなたが責任を取るの?」「事態が進めば、解決策も見つかる。まだ妊娠初期なんだから、子供を産むにしても十ヶ月も先のことよ。今からそんなに緊張する必要がある?」「問題を先送りにしても、解決にはならない。今おろさなくても、いずれにしてもおろすこ
だから、彼女が宮崎瑛介の車の中で目を覚ましたわけだ。「霧島さん、あなたは知らないかもしれませんが、あの日、私が宮崎さんに『霧島さんが気を失っているかもしれない』と言ったとき、宮崎さんがどれだけ慌てたか」大田理優がその話をしたとき、霧島弥生は彼女の真意を測りかねた。それは彼女が自分に媚を売ろうとしているのか、それとも他の意図があるのか?霧島弥生は慎重に返答した。「そうなの?どれほど慌てていたの?」大田理優は少し恥ずかしそうに笑った。「とにかく、私が宮崎グループに勤めてこれだけ長い間、一度も宮崎さんがあんな表情を見せたことはありませんでした。あのとき、彼の周りには役員がいて、彼に業務報告をしていましたが、霧島さんが倒れたと聞くと、役員たちを無視してすぐに駆けつけ、霧島さんを車に抱えて運びました。あの時の彼の顔色は、本当に緊張していましたよ」話の最後に、大田理優は彼女にウインクしながら言った。「宮崎さんは霧島さんを本当に大事にしているんですね」「そうなのかしら?」霧島弥生はふと、「昨日、彼のそばに他の女性がいなかった?」と聞いてしまった。この一言で、大田理優が抱いていた縁組みをする思いは一気に打ち砕かれた。彼女は言葉に詰まり、しばらくの間、どうやってこの気まずさを取り除けばよいのか分からなかった。宮崎さんの表情から、大田理優は彼のそばに他の女性がいたことを一瞬忘れていた。しかし、霧島弥生に言われて、何かが妙だと思い始めた。なぜなら……その女性は彼のオフィスにいたのだから。しかも最近、その女性のせいで会社内でもいろいろな噂が飛び交っていた。霧島弥生は、大田理優が呆然と立ち尽くしているのを見て、頭痛がじんわりと広がる額を軽く押さえながら静かに言った。「仕事に戻って」「はい、分かりました」大田理優が去った後、霧島弥生は再び携帯を取り出し、画面をタップして予約を確定した。もう未練はないと彼女は思った。昼休みの頃、江口堅から昼食の誘いがあった。霧島弥生は心が乱れており、断ろうかと思ったが、彼が昨日の仕事を代わりに処理してくれたことを思い出し、誘いを受け入れた。退勤後、霧島弥生はビルの玄関前で江口堅を待つことにした。彼は車で迎えに来ると言っていたので、彼女はそれに異議を唱えなかった。待っている間、
「わあ、そう言われると、私もそう思えてきた」「そうだよね。そもそも、お金持ちの奥さんが会社で秘書なんてやるものか?」「でも、なんで偽装結婚する必要があるんだろう?」「たぶん、何か理由があるんじゃない?私が聞いた話では、霧島さんと宮崎さんは幼馴染で、昔、霧島家が破産したとき、宮崎さんが彼女を助けるために一緒になったらしいよ。だから、今は誰も霧島さんをいじめられないんだ」「そうなんだ。宮崎さんって、本当にいい人なんだね」「それに、聞いた話では、宮崎さんはずっと海外に行っていた江口さんを待っていたんだって。義理堅くて一途な男、そんなの、うちの宮崎さんくらいだよね」彼らが話している間、霧島弥生はすぐ後ろで聞いていたが、避けることもせず、表情も何一つ変えなかった。まるで彼らが話している内容が自分のことではないかのようだった。やがて、江口堅の車がみんなの前に停まり、窓が開くと、そこにはかっこいい顔が現れた。「こんにちは」霧島弥生はみんなの視線を浴びながら、江口堅の車に乗り込んだ。車が遠くに走り去った後、先ほど話していた人たちはようやく我に返った。「さっきの、あれって……霧島さんだったよね?」「うん、そうみたい」「じゃあ、私たちがさっき言ってたこと、彼女に聞こえてたんじゃない?」「聞こえてたとしても、だから何?これは私たちの妄想じゃなくて、聞いた話を話してただけだし、たとえ私たちが言ったことが聞こえていたとしても、全部本当のことじゃない。そうじゃなかったら、彼女は反論したはずよ。きっと心にやましいことがあるから何も言ってこなかったのよ」「もしかしたら、彼女はどう反論していいかわからなかったんじゃない?さっき、宮崎さんは車を運転していて、江口奈々もちょうど彼の車に乗ってたし」人々は遠ざかる車を見ながら、議論を続けていた。霧島弥生は無表情で車の窓を閉め、外の木々や建物を見つめながら、心が重く沈んでいくのを感じた。頭の中に残っているのは、人々の激しい議論の声と……さっき通り過ぎた黒い車に乗った二人のことだった。「どうしたの?なんだか心ここにあらずって感じだね」江口堅は彼女の様子に気づき、彼女に尋ねた。その言葉に、霧島弥生は我に返り、笑みを浮かべた。「なんでもないわ。ただ、病み上がりだから」江口堅はため息
江口堅はそれ以上言葉を続けなかったが、その口調から彼の強い感情が伝わってきた。彼は霧島弥生に対して、もどかしさを感じているのだ。霧島弥生は、自分が妊娠していることを彼が知らないことにほっとした。もし彼がそのことを知っていたら、彼の口調は今よりもずっと厳しくなっていただろう。彼女が黙っているのを見て、江口堅はそれ以上何も言わなかった。レストランに着き、注文を済ませた後で、「ここで少し待ってて。10分くらいで戻るから」と言った。「分かった」霧島弥生は頷き、彼が何をしようとしているのかを考える気力もなく、ただ彼を待っていた。10分後、江口堅は袋を持って戻ってきた。「これ、持ってて」「何これ?」江口堅は言った。「薬だよ。病気になったって言ってただろ?もう大人なんだから、常備薬くらいは持っておくべきだよ。具合が悪くなったら、これを飲みなさい」霧島弥生は袋を見つめ、少しぼんやりした。「でも、私はもう大丈夫だから」「じゃあ、今後のために持っておけばいい」「分かった」彼女は仕方なく袋を受け取った。袋の中を見ると、そこにはいろいろな種類の常備薬が揃っていた。「ありがとう」「俺にそんなに気を使うなよ」江口堅は彼女の額を軽く指でつついて、「誰に対しても気を使うのはいいけど、俺にだけは遠慮するなよ。何かあったら、すぐに俺に言えよ」「分かった」その後、二人はしばらく会話ぜず、静かに食事を取っていた。少し経ってから、江口堅はやはり気になって霧島弥生に聞いた。「奈々にはもう会ったのか?」その言葉に、彼女の手の動きが一瞬止まり、そして頷いた。「うん」「彼女は今、何を考えてるんだ?帰国してすぐに宮崎くんに会いに来たってことは、昔の関係を再び取り戻そうとしてるのか?」「再び取り戻す」なんて言葉は、霧島弥生にとって耳障りだった。「彼らに以前の関係なんてないわ。そもそも二人は付き合っていたわけじゃないし」宮崎瑛介が昔言っていたことを思い出しながらも、当時彼らがなぜ一緒にならなかったのか、霧島弥生には理解できなかった。宮崎瑛介は「自分の隣の席は江口奈々のために永遠に空けておく」と言っていたし、江口奈々も彼を好きだったのだ。ならば、二人は恋人同士になっていてもおかしくなかったはずだ。だが、今さらその理由を考えても仕方が
江口堅は我に返り、霧島弥生を見つめた。彼女はとてもシンプルな服装をしていて、肩にかかる長い髪は無造作に耳の後ろでまとめられていた。今日は化粧もしておらず、病気がちのか弱い美しさが彼女を一層引き立てていた。その姿は、人の心に哀れみの感情を湧き起こさせた。江口堅は自分の立場をよく理解している人間だった。彼はいつも、自分が宮崎瑛介には到底敵わないことを知って、彼と張り合う資格もないとでも思っていただろう。霧島家が破産しそうになっていた当時、江口堅は多くの場所を駆け回ったが、彼の力では何もすることができなかった。ある企業の社長には、直接こんなことを言われた。「江口くん、君は優秀だし、君の能力を高く評価しているが、今の霧島家はもう倒れていくしかないのだ。賢い人間なら、自分の選択をしっかり考えるべきだ。私の会社に来てくれてもいい」その頃、多くの人は霧島家を立て直そうとする彼に力を貸すどころか、彼を引き抜こうとしていた。「霧島家はもう再び立ち上がることはない。たとえ今誰かが助けたとしても、以前の栄光は戻って来ないだろう」「君も自分の将来をよく考えるべきだ。君は霧島家の人間でもないし、霧島家の婿でもない。ここまで頑張る必要はない」江口堅は帰り道、その言葉を真剣に考えていた。彼は霧島弥生に電話をかけ、彼女がどこにいるかを尋ね、迎えに行った。到着すると、田中グループの次男が、霧島弥生に言葉の暴力を浴びせているところだった。「お嬢さん、霧島家が栄えていた頃には、たしか私の誘いを鼻で笑っていたなあ。今、霧島家は崩壊していっているというのに、まだそんなに気高い態度を取れるのか?俺は今の霧島家を助けてやることもできる立場だ。しかしそのためには少しばかりの代償が必要だろう。例えば、一晩一緒に寝るとか?」その言葉を聞いた連中たちは爆笑した。江口堅は彼に殴りかかろうとするのを、必死に抑えた。その瞬間、彼が自分の将来についてのすべての悩みが消え去り、そこにはただひとつの信念が残った。霧島家はこのような重要な時期にいる中、それを見捨て、自分の将来だけを追い求めるわけにはいかない。彼は田中と喧嘩するわけにはいかなかった。そんな資格がなかったからだ。彼は霧島弥生の手を引き、その場を離れるしかなかった。その後、田中は打撃を受け、そ
彼女は「仕事が終わったら帰る」と返信した。その後、宮崎瑛介からの返信はなかった。彼女は携帯をしまい、江口堅に「分かったわ、江口くん」と言った。江口堅は彼女の携帯をちらりと見てから聞いた。「彼からのメッセージ?」霧島弥生は一瞬ためらい、そして頷いた。江口堅もそれ以上何も言わず、二人は黙って残りの食事を終え、会計を済ませた後、江口堅は彼女を家まで送った。霧島弥生がエレベーターに乗ると、江口堅も一緒に乗り込んできた。彼女は少し驚いて尋ねた。「どこに行くの?」二人のオフィスは別の場所にあるため、彼が同じエレベーターに乗る理由が分からなかった。江口堅は片手をポケットに入れ、淡々とした表情で答えた。「宮崎さんに会いに行くんだ。ちょうど報告することもあるし」エレベーターを降りた後、江口堅は腕時計の時間を確認し、霧島弥生に向かって言った。「仕事が始まるまであと10分。この時間に宮崎さんに会いに行くのはよくないな」霧島弥生は仕方なく提案した。「じゃあ、私のオフィスで少し待ってて」「わかった」霧島弥生のオフィスに向かう途中、宮崎瑛介のオフィスを通る必要はなかった。二人が到着すると、大田理優はすでに出勤していて、二人にコーヒーを淹れた。「ありがとう」江口堅はコーヒーを受け取りながら、大田理優の顔を見て尋ねた。「宮崎さんはさっき帰ってきた?」その言葉に、大田理優は少し驚いたように見え、そして頷いた。「はい」江口堅は意味ありげな表情を浮かべて言った。「一人で帰って来たのか?」大田理優は何も言わず、唇を噛んだ。霧島弥生はコーヒーを一口飲んだが、何も言わなかった。部屋の中には、奇妙な沈黙が流れた。10分後、江口堅はカップを置いて言った。「そろそろ時間だ。宮崎さんに会いに行こう」彼は立ち上がり、外へ向かって歩き始めたが、ドアを開けたところで振り返り、霧島弥生を見つめた。「弥生ちゃん、昨日のプロジェクトで、君にも協力してもらう部分がある。一緒に報告しよう」そう言って彼は霧島弥生を誘った。霧島弥生は一瞬戸惑い、無意識に眉をひそめた。彼女が答えないのを見て、江口堅はもう一度尋ねた。「いい?」その言葉に、霧島弥生はようやく我に返り、頷いた。「分かったわ、一緒に行く」本当は、彼女は宮崎瑛介と江